恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

久城が病室を出てから数十分経つ頃、梓は一樹に帰るよう促した。


「私は祖母が目を覚ますまでここにいたいので、一樹さんはそろそろ……」


これ以上、病院に引き留めてはおけないだろう。


「わかった。それじゃ、なにかあったら連絡をくれ。遅い時間でもかまわないから、帰るときに迎えにくるよ」


せっかくの好意を〝いいえ〟とは言えなかった。
迎えにきてもらうつもりはもちろんないが、一樹の優しいひと言が梓はうれしかった。

陽子が病院に到着したのは、一樹が帰ってから一時間ほど経った頃だった。

スマートフォンでは【心配はいらないみたい】とメッセージを送っておいたが、やはり心配で駆けつけたのだろう。嫁と姑という立場だが、ふたりは昔から仲がいい。


「おばあちゃん、どう? まだ目を覚まさない?」
「うん、先生はじきって言っていたけど」


そう言われてから、かれこれ二時間が経過している。

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