恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

それは、数十分前のことだった。

横浜に寄港した大型客船では、空間デザイン会社『クレアスト』の創立記念パーティーが開催されていた。

全長三百メートル、全幅四十メートル。白亜の客船はたびたびテレビでも報じられ、その豪華絢爛さは見る者の心をつかんで離さない。
テレビで見るよりもゴージャスな船内は、パーティーの招待客たちを一様に満足させているようだった。

金色に光り輝く螺旋階段を下りたところに、会場となるパシフィックダイニングがある。
天井のいたるところから吊るされたボールクリスタルのシャンデリアが船内を上品な光で満たし、いるだけで気分が高揚してくるような場所だ。

ダイニングのサイドには豪華な料理がふんだんに用意され、ブッフェスタイルの形式。飲み物はダイニング内を機械仕掛けのように規律正しく歩くドリンクスタッフから、好きなものをチョイスするようになっている。

招待客はクレアストの上層部と取引先がメイン。デザイン企画部に所属している梓は、総務部からの依頼で手伝いに駆り出されていた。

大学を卒業と同時に入社した梓は、現在二十七歳。この四月で勤続丸五年を迎えた。
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