京都祇園 神さま双子のおばんざい処
 それからふたりは再び和やかに話ながら、最後の白玉を食べた。これも弥彦さんの手作りで、私も食べたことがあるけど他の店にはない食感が特徴。五月なので子供客がいるときには柏餅のように作ることもあるけど、今日はお化粧をしている夢桜さんにも食べやすいように小さめの白玉だった。

「ああ、白玉なんて久しく食べていなかったけど、こんなにうまいものだったっけ」

「ここのものは何もかも特別やさかい」

「そうだね」と、水森さんが少し遠い目をした。

「ここは何もかも夢みたいだった。これから僕は現実に戻らないといけない」

 食事が終わると、水森さんが先に『なるかみや』から出ていく。よい食事をさせてもらったと、夢桜さんにも微笑みかけていたが、店を出るとひとりのビジネスマンの顔に戻っていた。

 見送った夢桜さんは、カウンターに腰を下ろした。弥彦さんが黙って隣に座る。

「あの人、お店から出た途端に見たことない背中になってた」

「そうか」

 と、拓哉さんが夢桜さんにお酒を改めて用意し、お酌していた。

「ぬる燗にしてくれてんね」

「五月も半ばを過ぎたけど今夜は少し肌寒い。それに、こういうときの冷や酒は、あとから効いてくるから」

 夢桜さんはおちょこを傾けた。

「思った通りにならんことが、のちのちの幸せになることもあるのよね」

「そうかもしれないな」

「あなたのおばんざいは改めて私たちにそれを教えてくれはった。おおきに」

 白木のテーブルに透明な雫がぽとりと落ちる。

 十五年前、駆け落ちを誓った無垢なふたりを想い、夢桜さんは泣いた。

 祇園の夜の賑わいが遠くに聞こえている。
< 23 / 23 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:17

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

表紙を見る 表紙を閉じる
2019年7月28日、スターツ出版文庫様から発刊。全編書き下ろしです。 プロローグを公開させていただきます!なお、書籍版とは細かな表現など若干の違いがありますが、ご了承ください。 -------------------------------------- 幼い頃から“あやかし”を見る能力を持つ大学4年生の静姫(しずき)。 そのせいで卒業間近になるも就職先が決まらない。 絶望のなか教授の薦めで、求人中の「いざなぎ旅館」を訪れるが、なんとそこは“あやかし”や“神さま”が宿泊するワケアリ旅館だった! 驚きのあまり、旅館の大事な皿を割ってしまい、静姫は一千万円の借金を背負うことに⁉ 半ば強制的に仲居として就職した静姫は、半妖の教育係・葉室(はむろ)先輩と次々と怪異に巻き込まれてゆき…。 個性豊かな面々が織りなす、笑って泣けるあやかし譚!
表紙を見る 表紙を閉じる
2018年8月28日、スターツ出版文庫様からは一冊目の書籍化です。全編書き下ろしです。 プロローグと第一章を公開させていただきます!なお、書籍版とは細かな表現など若干の違いがありますが、ご了承ください。 -------------------------------------- ふと迷い込んだのは、イケメンの神様見習いが心に美味しい御飯をふるまう、涙あり笑いありの人情旅館!

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop