堅物社長にグイグイ迫られてます
「……あ」

そして記憶を辿って思い出す。

御子紫さんが言っているのはたぶん俊君の浮気現場を目撃してアパートを飛び出した日のことだと思う。

あの日、タクシーの中で寝てしまった私を御子柴さんは仕方なく自宅に運んでくれて、濡れた私の服を着替えさえせてくれた。

でも、あのときの御子柴さんはたしか私に“お前の下着姿を見ても何も感じない〟というようなことを言っていたし、‶下着は上下揃えろ〟と平然とした顔で余計なアドバイスまでされた気がするけれど……。

御子柴さんのさっきの言葉を聞いた限り本当はそんな余裕なかたってこと?

それに気付いた私は慌てて確認をする。

「な、なにもしてないですよね」

「当たり前だろ」

それにホッと胸をなでおろすけれど、たしかに御子柴さんが寝込みを襲うような卑怯な真似はしないと思う。

それよりも今は御子柴さんからの告白の返事をしないと。

でも、私の中で御子柴さんは出会った日から今の今までずっと“上司〟という存在だったので、初めて知った御子柴さんの想いに戸惑ってしまう。

「えっと、あの……」

「いいよ。今、無理に返事しなくて」

そんな私の胸中を察してくれたのか御子柴さんは呟く。

「俺はただお前が誰かに取られる前に自分の気持ちを伝えておきたかっただけだから。まぁ考えてみて。俺とのこと」

「は、はい」

その言葉に私は小さく頷いた。


< 239 / 300 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop