堅物社長にグイグイ迫られてます
俯いていた顔を上げると花束を抱えた上品な着物姿の六十代ぐらいの女性が心配そうに私を見下ろしている。視線がぶつかると、女性が突然ハッとしたような表情になった。

「あら!もしかしてあなた雛子ちゃん?」

「えっ、あ、はい。そうですけど……」

どうして私の名前を知ってるのだろう?そう考えて私もハッと気がつき、しゃがみ込んでいた態勢から勢いよく立ち上がる。この人もしかして――――

「椿さんですか?」

そう尋ねると、目の前の女性は嬉しそうな笑顔を見せる。

「やっぱり雛子ちゃんだったのね。まさかこんなところでまた再会するなんて」

「そうですね。私も驚きました」

椿さんは、御子柴商事の創立記念パーティーが始まる前に苦しそうに咳をしていたところを私が声を掛けた女性だ。

どうして彼女がここにいるんだろう?

あの創立パーティーに参加していたから椿さんはたぶん御子柴商事と関わりのある企業の社長夫人だと思う。ということはもしかしてこの高級住宅地に自宅があって、御子柴さんの実家の近所に住んでいるのかな?そう思ったのだけれど―――――

「うちの前でどうしたの?」

椿さんから意外な言葉が飛び出した。

「えっ、うち?!」

「ええ。ここは私の家よ」

椿さんが指を差したのは今さっき御子柴さんのお父さんが入って行った豪邸だった。ということは、もしかして椿さんて……。

「御子柴さんのお母さん!?」

気が付いた私は思わず大きな声を上げてしまった。

「あの、私、御子柴さん……じゃなくて悟さんの建築事務所で働いているんです」

「あら!そうだったの?」

「はい。先日のパーティーも御子柴さんに誘われて参加していました」
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