新月の夜はあなたを探しに



 「あぁ………、あぉねさん。」


 もう1度だけ彼を呼んだ。
 静寂が支配する夜の部屋で、すぐに消えてしまいそうな声だった。
 それでも、葵音に確かに届いたのだ。

 彼が、ハッとした顔でこちらを向いたのだ。


 彼の真っ黒で澄んだ瞳で見つめられ、黒葉はドキッとした。
 それはまるで、初めて彼に出会った時のように、とても緊張したし、嬉しい瞬間だった。

 やっと彼に会えた。
 やっとこちらを見てくれた。


 「黒葉…………おまえ、目が覚めたのか。」
 「あお、ねぇ………さん。」


 必死に言葉を紡ぐ黒葉を見つめて、彼は顔を歪ませた。
 あぁ、彼が泣いてしまう。
 そう思った瞬間。

 黒葉は葵音にギュッと抱きしめられていた。
 力強くも優しく、そして少し鉄っぽい安心する香りと、温かい体温。
 それを全身で感じる。

 そうすると、自分がどうなってしまっていたのか、不思議と少しずつわかってきたのだ。


 「黒葉………よかった。ずっとずっと待ってたんだ。」
 「あ………。」
 「いい。無理して話さなくていいから。」


 葵音は、体をゆっくりと離して、黒葉の顔を見つめた。
 すぐそこにある彼の瞳からは涙が溢れていた。けれど、それが嬉し涙だと黒葉はわかっていた。
 きっとずっと待っていてくれた。心配をかけたのだと、黒葉はわかり自分の瞳にも同じように涙が溜まっていくのがわかった。


 「おかえり、黒葉。」
 

 そういうと、葵音は優しく頭を撫でてから、黒葉の唇に小さくキスを落とした。


 あぁ、自分は彼の元に帰ってこれたんだ。
 ここが私の居場所で、帰ってくるところなんだ。


 それがわかると、黒葉はハラハラと泣いた。
 その後すぐに疲れが出てきてまた眠くなってしまう。



 けれど、もう怖くはなかった。
 起きても彼が居てくれる。
 目覚めれば、葵音との未来が待っているのだ。


 そう考えると、何も恐れるものなどなかった。


 目を閉じる瞬間に見えたのは、キラリと光る三日月と、彼の笑顔だった。


 きっと私は星と同じぐらいに月が好きになるはずだ。
 黒葉はそう思ったのだった。







 
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