新月の夜はあなたを探しに



 「さ。もう話しもしたからいいだろ。夜も遅いし、家に帰れ。」
 「………ぁ………。」

 頭から葵音の手が離れると、黒葉は切ない顔をして名残惜しそうに葵音を見つめた。
 そんな表情の黒葉を直視する事ができず、葵音は視線をずらして、窓の外を見つめた。
 もう外は真っ暗になっていた。随分と長い時間話し込んでしまったようだ。


 「また、来てもいいですか?」
 「……なんでそうなるんだ。ネックレスは作れないし、話をしたいという願いは叶えた。他に何を望むんだ?……さっさと、家に帰れ。」
 「……帰る家なんてありません。」
 「……なんでだ。」


 聞かなければよかった。
 そんな風に思っていても、聞いてしまう。彼女に流されているとわかりながらも、葵音は翻弄されていた。

 
 「実家から出てきたばかりで、今はホテル暮らしなんです。」
 「ホテル!?………おまえ、どんな生活してるんだよ。」
 「いえ、すごく古いビジネスホテルなんで、安いですよ。」
 「だとしても、家借りればいいだろ。」
 「家族にばれたくないんです。」


 それを聞いた葵音は、ため息をついた。
 訳ありだとは思ってはいたが、これほどだとは思わなかったのだ。


 「それで、君は俺に何をして欲しいんだ。」
 「私をここで働かせてください。出来れば、住み込みで働かせてください。」
 「無理だ。」
 「そんな!少し考えて貰えませんか?どうしても、あなたの傍いたいんです。」


 やはり黒葉という女にこれ以上関わってはいけないのだ。
 ミステリアスで純粋で、そして美しい彼女に惹かれ始めているのは確かかもしれない。
 一目惚れという言葉があるぐらいだ、関わって1日で惹かれてしまう事もあるのだろう。

 けれど、彼女は未知すぎるのだ。
 葵音の懐に入り込みながらも、彼女の事はわからないままなのだ。

 それに、葵音には決めていた事があった。
 
 本気で人を好きにならないと。



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