新月の夜はあなたを探しに



 「葵音さんの言う通り、やはり私が急すぎたんですよね。……恋愛したことがないので、ちょっと焦りましたし……大丈夫だと安心しすぎてしまいました。」
 「大丈夫って、何が?」
 「秘密です。」


 苦しそうに微笑む彼女は、とても儚く見えた。
 秘密ばかりで、理由も言わないのにまっすぐ自分だけを見てくれる彼女を、葵音は不思議に思った。
 けれど、それに彼女だとそれを悪い気がしないのだ。

 それが恋なのかはわからない。
 けれど、惹かれ始めているの、隠しようもない事実なのだ。

 黒葉を探し回ったことが、いい証拠だ。
 

 葵音は彼女の横に座り、黒葉の方をを見つめた。


 「うちに来るか?」
 「え………。」


 彼女はポカンとした横顔から、ゆっくりとこちらを見た。信じられないと言った顔で葵音を見返している。


 「何だよ。おまえが居たいって言ったんだろ。」
 「そうですけど……さっきは、断りましたよね。どうして、そんなすぐに。」
 「……放っておけない……から。それに、家事やってくる人が欲しいと思っていたからな。それをやってくれるならいいかなと思ったんだ。」


 かなり苦しい言い訳だとはわかっている。
 けれど、葵音にはまだ恋をしようとする勇気はなかった。彼女の傍にいたいとは思う。けれど、まだ怖かったのだ。

 昔と同じようになるのが。
 人を信じないと恋愛は出来ないとよく言うが、本当にその通りだと葵音は思っていた。

 彼女の反応を恐る恐る見る。
 すると、目を輝かせて、葵音の腕をがっちりと掴ん見ながら葵音を見上げていた。



 「やりたいです!やらせてください!」


 葵音の思いに気づいているのか、気づいていないのかはわからない。
 けれど、彼女の可愛らしい反応を見て、葵音はホッとした。


 「あぁ。じゃあ、よろしく頼む。」


 満面の笑みを見せる黒葉を見つめながら、葵音は少しだけ楽しみになっていた。




 これから、黒葉との同居生活が始まるのだ。





< 20 / 136 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop