新月の夜はあなたを探しに
何となく六角形に見えるが、星の部分が全くわからなかった。
葵音はどう反応していいのかわからず、紙の絵をただ眺めるしかなかった。黒葉は、「ここがシリウスで、こっちがリゲルです。」などと、指で示して無邪気に教えてくれている。
ここで「上手いな。」と言えば彼女は喜ぶだろう。しかし、それでは上達はしないと考えると、指摘しなければいけないとも思う。
「これで作ってもいいですか?」
ニッコリと笑う彼女を見てしまうと、葵音は躊躇ってしまうけれど、彼女の初めての作品がこんなふにゃふにゃな作品になってしまうのは、耐えられなかった。それに、初めての弟子(にしたつもりはないけれど)の作品がこれだと思うと、やはり我慢は出来なかった。
「………黒葉。」
「はい!」
「………おまえ、絵は苦手なのか?」
その言葉を聞いた瞬間、黒葉は一気に顔が暗くなりシュンとしてしまった。
「やっぱり駄目ですか?」
「ダメというか………何を描いているのかがわからないな。」
「………実は美術の評価だけはいつも最悪で。とっても下手みたいなんです。」
「そうだったのか……。」
「可愛く描けてると思ったんですけどね。」
「………。」
黒葉の発言に驚き、葵音はひきつった笑顔しか返せなかった。本人に自覚がないのが一番やっかいだろう。
彼女にジュエリー作りを教えるの、想像以上に大変なことになりそうだと、内心では思ってしまった。けれど、彼女はやる気に満ちている。それを「デザインが描けないから無理だ。」とは言いたくなかった。それに、練習していけば誰でも上手くなるものではあるので、黒葉の頑張りに期待するしかないな、と考えるようにした。
「黒葉。このデザインは書き直したとしても細かくて難しいから、初めは簡単な1つの星型にしよう。こんなのはどうだ?」
葵音は、黒葉のデザインの隣にシンプルな星を1つ描いた。十字架のように長い棒とその間に短い棒がある星の光をイメージしたものだった。
「この中央に小さな宝石を入れてもかわいいな。どうだ?」
「………とっても素敵です……。やっぱり葵音さんはすごいですね。」
「まぁ、ずっと物作りしてるから、これぐらいは出来るさ。」
彼女が気に入ってくれたようで、葵音も安心をした。目を輝かせながらデザイン画を見つめている。