新月の夜はあなたを探しに



 先程、彼女の部屋には荷物が置いたままになっていた。それを考えると、この家に帰ってこないという事はないと思う。
 けれど、こんな夜中に彼女を一人外に行かせるわけには行かなかった。


 何かあったのか。
 今、彼女はどこにいて、怖い思いをしているのではないか。
 そんな事を考えてしまうと焦る気持ちが大きくなるばかりだった。


 部屋の外に出ると、何故かいつもより闇が深いように感じた。けれどそのせいか、星は綺麗に光り輝いている。

 葵音は暗い道を走り始めた。住宅街は誰も歩く人がおらず、車も少ないため、静寂な空気に葵音の足音だけが響いた。
 
 葵音は迷うことなく、足を進めた。
 黒葉が居るのは、あの場所しか考えられなかった。





 呼吸が荒くなってきた頃見えてきたのは、照明が少ない暗闇の空間だった。
 木々に覆われたそこは、住宅街とは違った雰囲気があり、葵音の足も止まってしまった。
 以前来たときよりも暗闇が支配する、湖のある公園。彼女のが本当にここにいるのだろうかと不安になりながらも、葵音は足を踏み入れる事にした。


 葵音が歩く度にジャリジャリと砂や石を踏む音と、草木がガサガサと擦れる音が響いた。
 しばらく歩くと、湖が見えてきた。


 真っ暗な空間にぼんやりと人影が見えた。
 湖に星空が反射して、そこだけが妙に明るく、その人影を照らしているようだった。


 湖の畔に黒葉が座っていた。
 砂の上に膝を立てて座り、また星空を見つめているのか上を向いていた。
 黒葉は、いつの間に着替えたのかロングのワンピースにニットのロングカーデガンを羽織っていた。


 とりあえずは、彼女が見つかった事に安堵しながら、ゆっくりと彼女に近づいた。


 「黒葉、おまえはまた一人で出歩いて………。」
 「………。」
 「黒葉?おい、聞いてるのか?」
 「っっ!!」


 彼女の肩を強く掴んだ瞬間、彼女が驚きながらこちらに目を向けた。


 黒葉の綺麗なオニキスのような瞳からは、大粒の涙が溢れていた。



 それは満天の星空から落ちてきた、小さな星のようにキラキラと輝いていた。





 
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