新月の夜はあなたを探しに


 しかし、その日はあっという間に訪れる事になった。
 水族館の話しをしてから3日後。
 仕事の打ち合わせが急遽キャンセルになり、その日の、予定が全てなくなってしまったのだ。
 予定を前倒しして作業をする事を出来たが、葵音は黒葉との約束を優先させることにした。


 「黒葉、今日の仕事がキャンセルになったから、水族館に行かないか?」
 「水族館………行きたいです!」


 黒葉は家事をしていた手を止めて、満面の笑みを向けた。


 「平日だからそんなに混んでないだろうし、天気もいい。黒葉の準備が出来たら行こう。」
 「はい!すぐに終わらせます!」


 黒葉はパタパタと家事を終わらせて、自室に戻って支度をしていた。
 葵音はその間、チケットをネットで購入したり、周辺のショップを見たりして時間を使った。


 「すみません!お待たせしました。」
 「いや、待ってないよ。」


 部屋から出てきた黒葉は、葵音が初めて彼女を見かけた時と同じ服装だった。
 白いブラウスに、紺の花柄のフレアスカートという格好。

 彼女が葵音の家に来たときのバックは、大きかったもののたくさんの服が入れられるほどのものではなかった。
 普段は、パンツスタイルで家事をしているけれど、出掛けるときはワンピースやこのスカートが多かったように思えた。
 十分な給料を渡しているはずだが、彼女はほとんどお金を使っていないようなのだ。
 時々、「おいしそうなケーキを買いました。」と葵音に買ってきてくれたりはするが、自分のものは、必要最低限で済ませている様子だった。


 おしゃれをしたい年頃のはずなのに、貯めているんだと少し感心していた。

 
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