新月の夜はあなたを探しに



 葵音は心の中で「黒葉、ごめん。」と謝りながら、まずは免許証を手に取った。
 そこには「平星黒葉」と書いてあり、ここより北の地方の住所が書いてあった。葵音はそこには行ったことがなかったので、どんなところかはわからなかったけれど、そんな所から来ていたのだと驚いた。
 そして、何より安心したのは黒葉が偽名を使ってなかった事だった。
 秘密が多い彼女だ。もしかしたら、嘘をついているのかもしれないと思っていたのだ。
 名前や年齢も、葵音に話した通りだった。

 彼女が名前など嘘をついていたとしても、葵音は別に気にはしなかっただろう。
 彼女は彼女なのだ。
 けれども、黒葉に嘘をつかれていなかったとわかった事が何より嬉しかった。




 ホッとしながら、免許証を箱に戻し、使い込んである、立派で分厚い表紙のノートを手に取った。
 これは免許証よりも見てはいけない物だと、葵音にはわかっていた。 
 けれど、自分が安心したいがためにそのノートを捲った。

 そこには、葵音が思っていた通りの事が書かれていた。そのノートは、黒葉の日記だった。
 けれど、日記はとても簡単に書かれていた。


 月日が手書きで書かれ、その横には「今日も違った。」とだけ書かれていた。
 けれど、所々は「今日も同じだった。そして、違った。」とも書かれている。
 
 ほとんど、書かれている「今日も違った。」というのは、どういう事なのだろうか。
 葵音は、その意味が知りたくて、日記のページを捲りつづけた。
 しばらく、同じような言葉だけが続いていた。

 けれど、他の文字が見えてきて、葵音は捲っていた手を止めた。


 「これは、俺と会った日………。」



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