新月の夜はあなたを探しに
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知らないむくもりと心地よさを感じて、まだ、眠い目を無理矢理開けた。
黒葉の視界に飛び込んできたのは、優しい顔で眠る葵音だった。
そんな彼に肌と肌とを合わせるように抱きしめられている。
気持ちいいと感じたのは、これだったのかと黒葉は初めて知った。
大好きな相手と素肌のまま触れあう事が、あんなにも心地よくて幸せな事だというのは、昨日の夜の事情でよくわかった。
けれど、寝ている間もこうして抱きしめてもらえるのが、気恥ずかしくも嬉しいのだ。
葵音のゆったりとした鼓動が、黒葉の体に響く。
その音さえも愛しいのだ。
彼を見つめると、昨晩を思い出して赤面してしまう。
昨日は彼は躊躇していたのに、黒葉の方から誘ってしまったのだ。それだけでも、恥ずかしいことなのに、彼から与えられる熱はとても熱くて激しくて………普段優しい彼からは信じられない事だった。
ギラギラとした獣のように怪しく光る瞳は鋭く、そして呼吸は荒かった。言葉では「ごめん。」と言っていても、行動は止められる事はなかった。
黒葉自身も止めて欲しいはずもなかった。
それに葵音に求められることが幸せで、もっと欲しがってほしいなとさえ思った。
彼と距離が近くなればなるほど、もっと彼が欲しいと思ってしまう。
葵音との思い出が欲しいと思い、一つ一つを大切に見て感じてきた。そして、次はどんな思い出が出来るのだろう?
そんな楽しい期待をしながら、フッと考えてしまうのだ。
その思い出はいつまで作ることが出来るのだろうか?
彼の傍にいれるのはいつまでなのか?
「もっと、葵音さんと一緒にいたい。」と。
温かい彼の体温に包まれながら少し先の未来を考えると、悲しさで目に涙が溜まってしまう。
もっともっと、彼にこうやって抱き締めて貰いたい。離さないで欲しい。
黒葉はそう願いながら、寝ている彼の胸に自分の顔を埋めた。