新月の夜はあなたを探しに






 その日から、黒葉は遅くまで部屋に籠る事が多かった。

 昼間は今まで通りに家事をこなし、夜は葵音が作業を終える頃まで自室にいたのだ。そして、葵音が眠る頃に部屋から出てきて一緒に眠るのだ。

 それ以外は全く普通の日々だった。
 白いワンピースに関しては、とても心配していたけれど、1度黒葉の部屋のドアが開いたときに、壁にあのワンピースがかけられているのを見て「気に入ってくれたんだな。」と葵音は安心した。

 きっと、あの時の表情は驚いただけで、葵音が気にしすぎていただけだろう。そう思うようにしていた。






 そんな日を過ごし、あっという間に旅行の日の前日になった。

 葵音は旅行中は仕事をしないで、黒葉との時間を満喫しようと、いつもよりペースを早めて仕事を終わらせていた。
 そのため、いつもより仕事が早く終わり、葵音も簡単には旅行の準備をしている時だった。

 トントンッと部屋の扉がノックされた。
 もちろん、黒葉だ。

 「どうぞ。」と彼女を招きいれようとすると、彼女は真っ白なパジャマを着たままその場に立っていた。


 「あの、また星を見に行きたいんですけど……今夜も湖に行ってもいいですか?」


 新月の夜は、こうやっていつも夜の散歩を誘って来ていた。
 けれど、その日は新月ではなかったので、月がとても綺麗に輝いている夜だった。


 けれど、黒葉の表情があまりに真剣で、そして儚くみえてしまい、何も聞き返さずに、葵音は頷いたのだった。





 
< 84 / 136 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop