新月の夜はあなたを探しに



 「……仕事あるから……ごめん。」
 「あっ……少しだけでもいいんです!」
 「だから、無理だって……。」
 「お願いします!名前だけでもいいので………っっ!!」

 
 その場から去ろうとする葵音を、悲しげな顔で懇願する彼女だったが、途中で表情が歪んだ。急に目を閉じ、そして両手で目を押さえながら、その場に座り込んでしまった。


 「また………っっ!」
 「おい。おまえ、どうしたんだ?」
 「……あ、あのいつもの事なんで、大丈夫………です……。」


 目が痛いのか、彼女はそのまま蹲ってしまう。葵音はどうしていいかわからず、地面に膝をついて彼女の体を支えてやるしかできなかった。

 「救急車呼ぶか?」
 「救急車は呼ばないでくださいっっ!」
 「………。」


 彼女は目を押さえたまま強い口調で、葵音の提案を拒否した。
 あまりの必死さに、葵音は呆然と彼女を見つめてしまう。
 目が閉じられている状態でも、葵音が黙って自分を見ていると思ったのか、女はハッとして小さな声で話し始めた。


 「いえ………少しすれば治るので……そのままにして……ください……。それより、お話を、名前を………。」
 「お、おぃっっ!」


 彼女は、話している途中にしゃがみこんだまま、体をフラフラと揺らしていた。
 そして、そのまま葵音の体に支えられながら体を倒した。
 意識を失ったのか、体の力が抜けた状態だった。彼女の閉じられた瞳からは、涙が流れていた。


 「なんなんだ………一体……。」


 あまりの展開に、葵音はひとりため息をつくように呟きながら、腕の中に深く眠る青白い肌の女を見つめた。


 
 
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