3度目に、君を好きになったとき

「ここで、いつも絵を描いているんだ」


先輩がドアを開けた部屋に、そっと足を踏み入れる。

そこは寝室というわけではなく、本当にただ絵を描くためだけに用意された部屋だった。

ベージュの壁に飾られた、数々の風景画。

まだ何も描かれていない白いキャンバス。

部屋の隅には筆を洗うための小さな流しもついていた。


「アトリエ、ですか? すごい……」


先輩の描く絵には青や水色の優しい色が多く使われていて、眺めているだけで癒される。

ひときわ目立っていたのは、窓際のイーゼルに置かれた大きめの絵だった。


薄紫の色が使われた、幻想的な夕空。

その右下には、ぽっかりと空白があり、まだ描いている途中なのだとわかった。


何だか懐かしさを感じる絵だ。

私は過去に、この描きかけの絵を見たことがある……?

いつか、どこかで見た夕陽を思い出した。


じっとその絵を見つめていると。

――やっぱり、好き。

そんな想いが込み上げてくる。


どうか、このまま。先輩の絵を好きでいさせてください。



「この絵、すごく綺麗。まだ途中なんですね」

「……うん。まだ完成してない」


どことなく寂しげな目をして、先輩は答えた。


全ての色が塗られたら、集まったら。もっと綺麗な世界になるんだろうな。
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