マリンスノー
雪加瀬水菜はかわいい。
彼女について聞くとほぼの確率でその返答が来る。
それくらい、雪加瀬さんは見た目も中身もかわいかった。

黒曜石のように黒く長い髪は、耳元で緩くふたつに結われている。
薄く化粧を施した顔はきっとすっぴんもあんまり変わらないくらい整っていて。
さくらんぼのように赤く色づいた唇はきゅっと口角を上げている。

小さく華奢な身体に大きめの白いカーディガンを羽織り。
指先には桜色のネイルが塗られていた。

なにより、雪加瀬さんの噂で悪い噂を聞いたことがなかった。
人当たりが良くて、成績も良く、気さくで優しい女の子。
男の子だけじゃなく、女の子にも印象が良い雪加瀬さんは。
まさにみんなの理想の女の子像そのものだった。

そんな子が、うみくんを好きになった。

どうしてうみくんなんだろう。
他にも男の子はたくさんいるのに。

学年1かっこいい冬野くんは?
この前告白されたって噂で聞いたことがある。
もっといい人なんてたくさんいるはずなのに。

どうして。……どうしてうみくんなの。

大げさにぺこりと頭を下げて先に帰った雪加瀬さんの背中をぼっと眺める。
そして姿が見えなくなった瞬間、身体の力が抜けて床にへたり込む。
ぴんっと張っていた緊張の糸が緩んで。
私の目からは涙がぽろぽろと零れ始めた。
声を押し殺して、ただ静かに泣いた。

胸の奥で静かに押し殺されている想い。
不憫な私の想い。私がこんななせいで叶うことがない恋心。
脳裏に焼き付くうみくんの笑顔を繰り返し思い出してひっそりと涙を流した。

そしてその1週間後、ふたりが付き合い始めたことを噂で知った。
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