マリンスノー
「泣けばっていったの俺だし……。
 でもその声の大きさじゃ先生気づくから……。」

そう言って冬野くんは私の背中に手を回して。
顔が自分の肩に当たるようにそっと抱きしめてくれた。

うみくんが私に絶対しないこと。
うみくんに私がしてもらうことはないこと。

そう考えると、また涙が溢れてきて。
もらったハンカチを口元に当てながら、私はまた一筋涙を流した。

しばらく泣き続けると自然と涙は止まっていて。
泣いた分だけ、心が軽くなった気がした。

誰かに聞いてもらうだけで、こんなにも違うんだなあ。

そう思いながら顔を上げると、冬野くんと目が合う。

「気が済んだ?」

眩しいくらいの笑顔でそういう冬野くんに。

「気が済んだ!」

負けじと笑い返して見せた。

「俺さ思うんだけど。」

私が泣き止んでから隣に座り直して。
私たちはしばらくぼーっと前を見つめていた。
その沈黙を破ったのは、冬野くんの言葉だった。

「無理に諦めなくてもいいと思うんだ。」

「えっ。」

「好きなら好きでいていいと思う。
 無理に諦める必要なんてない。
 自分に正直に生きるのが1番だって、俺は思うけど。」

「でも、私の好きはきっと迷惑になると思う。」

「そんなの、堀川が気にすることじゃないだろ。
 誰かを好きになるのに良い悪いなんてないんだから。」

噂話を思い出した。
雪加瀬さんが冬野くんを振ったこと。

そっか。
もし、今も冬野くんが雪加瀬さんのことを好きだったとしたら。
私と同じで、失恋したことになるのか。

そう考えると、冬野くんの言葉に説得力が増して。
すとんっと胸の中に落ちてきた。

「そうだね。諦める必要、ないもんね。」
「あわよくば、別れて傷心中のところを狙えば付き合えるかもしれないし。」

「ちょっと!」

「あはは!冗談だって!」

そう言って笑い合っているときの私の顔はきっと今までで1番ひどい物だったと思う。
涙でぐしゃぐしゃで、目はぼてぼてに腫れていて。
でもきっと、うみくんと雪加瀬さんが付き合い始めてから。
1番本物に近い笑顔を浮かべることができた。
それもこれも全部、冬野くんのおかげ。

私たちは一つだけ約束をした。

今日、こうやって泣きじゃくっていたことを誰にも言わない代わりに。
冬野くんがたまにここでサボっていることを言わないこと。

今日のことはふたりだけの秘密。

そう、私たちは約束した。

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