マリンスノー
「大デマだわ!」

ピシャッと言い張る霞くんに背筋が伸びる。
……デマだったのか。

「もしかして他の奴もそう思ってんのか?」

「多分……」

「はあ……何でそんな噂流れてるんだよ。」

「さ、さあ……?」

「俺、雪加瀬と話したことほとんどないんだけど。」

人気者同士だからって話をするわけじゃないんだ。
でも確かに話してる姿見たことないなあ。
クラスも違うみたいだし。

「俺、雪加瀬のこと好きじゃないから。」

「わ、分かった。」

「変な勘違いするなよ。」

「う、うん。」

「あと!凪は噂を信じすぎ。」

「ふあ!?」

そう言って霞くんは私の鼻をつまんだ。

「ちょっ、鼻!」

「変な噂信じた罰な。」

いーっと笑ってバカにしてくる霞くんに。
私はむっとなってジタバタする。
でも、そう簡単には手は離れなくって。
私は無駄に動くことしかできなかった。

「鼻痛い……。」

「トナカイみたく赤くなってるぞ。」

「もう、誰のせいだと思ってるの。」

「凪のせい?」

「霞くんのせいだし!」

鼻をすりすりしながら霞くんを睨む。
うみくんとは違って身長が高い霞くんの顔は上の方にあって。
見上げるのに精一杯だ。

「どこから声聞こえるんだ?小さくて見えないな~。」

「ここだもん!」

ぴょんぴょん跳ねても、意地悪く背伸びする霞くんの顔には到底届かなくて。
怒った私はぐいっとブレザーの襟を掴んだ。

「なっ。」

「ここからです!」

ぐいっと下げると、予想していなかった行動に霞くんはふらついて。
思ったよりも簡単に顔が近づいた。

「……馬鹿力。」

顔を赤くした霞くんは空いている両手で私の頭をくしゃくしゃ撫でた。

「わあ!」

「あはははは!」

意地悪な霞くんをからかうのは私には難しくて。
結局、最後には負けてしまった。

「元気でたか?」

一通り笑い終わった霞くんは私にそう尋ねた。

「もしかして、元気づけようとしてくれたの……?」

私がうみくんと雪加瀬さんのことで落ち込んでるから?
霞くんの顔を見ると、穏やかに笑っていて。
なぜか胸がぎゅっと締め付けられた。

「元気ならいいんだ。」

じゃあな、と言って先に学校に入っていく霞くんの後ろ姿を。
私はぼうっと見つめていた。

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