墜落的トキシック
「これ、侑吏くんのじゃ……」
「屋台のおっさんがおまけに一個つけてくれたんだよ」
「いいの?」
「いいっつってんだろ」
包んでいるフィルムを剥がす。
飴の甘ったるい匂いに誘われるように歯を当てた。
カリッと音がして、飴が崩れる。甘い破片を舌先で転がしながら、零れてぱらぱらと散った赤い飴の欠片を目で追った。
足元に落ちたそれは、さながら血の痕のようで。
目を見張った瞬間、雨の匂いが鼻先をかすめた。
なんで。今日の予報は────
それが、引き金だった。
……ハル。
喉奥がひくついて、指先が凍った。
夏だというのに、祭りだというのに、嘘のように体温が冷えきっていく。
りんご飴が手元から滑り落ちて。
「花乃?」
「……っ」
「おい、おまえ顔────」
鏡を見なくても、自分が青ざめていることがわかる。
侑吏くんはそんな私の様子に驚いている、けれど。
「……ごめん、侑吏くん」
「は?」
「ごめん、私……帰らなきゃ」
ふらりと立ち上がって、気づけば走っていた。周りの景色も音も、わからなくなる。
家までの道をひたすらに駆けた。
……怖いと思った。
今日、侑吏くんがハルの名前を口にするまでハルのことを一瞬たりとも考えなかった。
そんな自分が怖かった。
侑吏くんといて、楽しかったんだ。
楽しかったことが怖くなった。
『ひとりにしないで』
約束したのに。
私にはハルしか、ハルには私しかいないということを嫌というほど思い知った。思い知らされた。だから……誓ったのに。