墜落的トキシック
息が切れるのも厭わずに、走って、ただ走って、ちょうど。
家の向かい────ハルの家の扉の前にたどり着いたところで、ザアアアと激しい雨音が後ろで響いた。
「……ハルっ、」
名前を呼んで扉を叩くと、すぐに。
まるで待っていたかのように扉が開く。
「花乃?」
優しい声、穏やかな表情。
私にはこの人がいてくれればいい。
縋り付くように、ハルの体に腕を回した。
そして、性急に唇を彼のそれに重ね合わせる。塞いだ、といったほうが正しいかもしれない。
「────っ、ん」
柔らかく、ただ、触れるだけのキス。
肌が合わさったところから、冷えた温度が戻ってくる。
ハルは何も言わずに、くしゃりと私の髪を撫でた。そして軽く引き寄せる。
そして、もう一度、ゆっくり合わさった。
ハルとキスをするのは初めてなんかじゃない。
だから、どの角度でどの位置が一番上手く重なるかはお互いがよく知っていた。
息もろくにせずしばらくそうしていると、酸素が薄くなって意識が白んでくる。
それでも、苦しくても、離したくなかった。
火照った温度に縋っていたかった。
意識を完全に失う寸前、ハルがなにか囁いたような気がしたけれど。
「……─────」
どうでもよかった。
そばにいて、離れないで。それだけでいい。
それ以外に何もいらないの。