墜落的トキシック

壊す人






「麻美、おはよう」

「おはよー」



翌朝。
私が登校して一番に声にかけるのは麻美だ。これはいつものこと。

大概麻美の方が先に教室に着いている。



「どうだったー?昨日」

「昨日?」



急な問いかけに首を傾げる。



「昨日、仁科くんの誕生日だったんでしょ」

「あー……えっと、うん。普通だったよ」

「普通って。なんだそれ」



くすくす笑う麻美を横目に昨日のことを思い返す。


普通……だったよね?
ふと頭の中を、ハルの熱い吐息がかかった瞬間がよぎる。


それを振り払うように頭をぶんぶんと横に振った。

……違う。あれは、きっと、何かの間違いだもの。



だって、あのあとは。
何事もなかったようにハルの誕生日をふたりで祝ったの。

ローソクに火をつけて、ハルがそれを吹き消して。
何でもない会話をしながら、ゆっくり時間を過ごした。それだけ。



そこにいたのは、優しくて穏やかないつものハルだった。

玄関先での出来事が、幻だったんじゃないかと思うほどに。


ただ、床に落ちた衝撃で無様に崩れたケーキだけが、あの時間の証拠だった。




「……あ、麻美が教えてくれたケーキ屋さんの、すごく美味しかった」



ありがと、と言うと麻美は顔をほころばせて。



「でしょ。あのお店お気に入りなのよね────って」

「……?」



麻美が不自然に言葉を切ったから、戸惑って瞬きをする。
すると、彼女は私の首のあたりを指差して。



「あんた、それ虫刺され?」

「え?」




< 242 / 323 >

この作品をシェア

pagetop