スパークリング・ハニー


だけど、それを口にはできなかった。


絶対そうだって確信を持っているのに、言えなかった。否定できなかった。




『俺、別にサッカー、好きじゃないよ』




前にもこんなこと、あった気がする。
そう────たしか、一学期のテスト前。

ふたりでモックで勉強したときのことだ。




『どうして、そんな嘘つくの?』

『嘘、だと思う?』

『うん。篠宮くんはサッカーが好きでしょ?』




あのときは、あんなに簡単に断言できたのに。
今は、そんなこと、できそうになかった。



あのときより、いろんな篠宮くんを知ってしまった。
憧れの、とだけ冠をつけていた頃の私じゃない。



知ってしまった。
その分、足りないことを知った。

私じゃ、全然だめだ。まだまだ。



ふと頭の中をよぎったのは、この前の放課後、グラウンドでこもりんとゆんちゃんと交わした会話。




『朝陽先輩って、絶対に言わないんです。サッカーが、好きだって』




ゆんちゃんの言葉に何も言えず口を噤んだ私。


そのあと、一呼吸おいて口を開いたのはこもりんだった。




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