夕闇の時計店
お茶の乗ったお盆を縁側に置いて、緋瀬さんが隣に座る。

「人の姿に戻ったんですね」

「……あぁ。まぁ、こっちが通常だ」

「そうなんですか?」

緋瀬さんは少しだけ神妙な面持ちをして、私と目を合わせた。

「餌を捕食するときだけ、本能が抑えられなって姿に現れる」

「餌……」

ってことは……

「血肉だったり魂だったり、な。人と同じように普通の食事で足りるから食わなくてもいい……はずなんだが、衣月の前だと変に抑えられなくなるときがある」

「私は餌……」

「違う。衣月を捕食しようとは思ってない。何故だか理由が分かればいいんだがな」

「そう、ですか……」

ほっと一安心して湯呑に入ったお茶を啜った。

温かいお茶が喉を通って落ちていく。

そういえば意識はぼーっとしてたけど、死にかけの体が治るちょっと前に何かを飲んだんだっけ……

「…………」

鬼の状態の緋瀬さんに、口移しされて……?
< 29 / 62 >

この作品をシェア

pagetop