夕闇の時計店
唖然とする私たちに父は近づいて、私の腕を掴んだ。

「……っ」

何も言わずに、背を向けて歩き出す。

「衣月!」

緋瀬さんの伸ばした手が離れる私の手を掠めた。

嫌……離れたくない。

「緋瀬さん……っ」

手を伸ばすも、離れて、長い暖簾を抜けると姿が見えなくなった。

外に出て、時計店のドアが閉まる。

必然的に涙がこぼれた。


そのまま、父に引き摺られるようにして家に帰った。

長い夜が、一日が、明ける。

……良いことばっかじゃ、なかったな。

二度と私の娘に関わらないでくれ、その言葉を何度も思い出して泣きながら、悩んで、眠ることなく朝になった。
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