君に触れたい。
「大野 景」
「はいっ」
出席確認の返事をした後、チラリと横目で隣を見る。
九条壮馬さんと隣になって一週間、私はまだ一度も彼の声を聞いていない。
「九条壮馬」
「…」
呼ばれた本人は返事をせず、教科書を開き、ノートを取る手を止めない。先生も姿が確認できればそれでいいらしく、流すように次の名前を呼ぶ。返事をしない生徒は彼以外にも何人かいるし、夜間では珍しいことでもない。1年生の時の担任が無駄に熱血漢の体育教師だったせいで、進級するまで知らなかっただけだ。なんて、どうでもいいことを思いながら九条さんを見つめる。
彼の視線は教科書とノート、たまに黒板を行き来するくらいで、こちらのことなど気付きもしない。だからこそ、こうして観察できるわけだが。
黒髪の刈り上げられていない少し長めの襟足に、目にかかる前髪。少し鬱陶しそうにも思えるけれど、時折そこから覗く伏せられた長い睫毛と綺麗な瞳に、ふとドキッとする。
(自分キモ……)
我に返って小さく息を吐いた。夜間高校の最初の方の授業内容は大抵中学レベルの簡単な復習だ。黒板を叩くチョークの乾いた音を聞き流しながら、私は頬杖をついた。
隣でページをめくる、シャリッというかすかな紙擦れの音。
彼は本当に口を開かない。授業中に手を挙げて発言することもなく、先生と目が合っても小さく会釈するだけ。クラスメイトと会話する様子なんて見たことがない。
休み時間になれば、何か本を読んでいるか、イヤホンで音楽を聴いているか、ひたすら予習をしているかの三択。
まるで自分の周りに、誰も踏み込ませない見えない壁を作っているみたいだった。
だから、彼に話しかけようという人は誰も居ない。
私が何故、彼に話しかけたいのか。それは、前に私の好きなラノベ小説「ブラック・オンライン」を読んでいたからだ。1部マニアにはすごく人気がある作品で、今年の10月には小規模だが原画展も開催される。それの話を彼としたい。の……だが。
タイミングを見計らって話しかけようとすると周りのクラスメイトが止める。
『彼奴には話しかけても無視されるだけ。』
と口を揃えて皆言った。
1年生の始めの頃は、他クラスでも注目の的で彼のちょっとしたファンクラブのような物があったが、話し掛けた女子2人を殴ったとか、20歳になって高校来たのは中学の時に暴力事件起こして捕まったからだとか。とにかく酷い噂急に広まりそれをきっかけに、誰も話しかけなくなった。
それでも話し掛けたいと思うのは、私がその噂自体を信じていないからだ。周囲の勝手な憶測で、私のオタ仲間が増えるチャンスを無駄にしたくない。まぁ結局は私のわがままのようなものだ。正直興味本位もある。
でも、それでも。
何も知らない彼のことを、何も知らない他の人がどうこう言うのは違う。
私は彼を知るために、ずっと話しかけるタイミングを探してる。
「はいっ」
出席確認の返事をした後、チラリと横目で隣を見る。
九条壮馬さんと隣になって一週間、私はまだ一度も彼の声を聞いていない。
「九条壮馬」
「…」
呼ばれた本人は返事をせず、教科書を開き、ノートを取る手を止めない。先生も姿が確認できればそれでいいらしく、流すように次の名前を呼ぶ。返事をしない生徒は彼以外にも何人かいるし、夜間では珍しいことでもない。1年生の時の担任が無駄に熱血漢の体育教師だったせいで、進級するまで知らなかっただけだ。なんて、どうでもいいことを思いながら九条さんを見つめる。
彼の視線は教科書とノート、たまに黒板を行き来するくらいで、こちらのことなど気付きもしない。だからこそ、こうして観察できるわけだが。
黒髪の刈り上げられていない少し長めの襟足に、目にかかる前髪。少し鬱陶しそうにも思えるけれど、時折そこから覗く伏せられた長い睫毛と綺麗な瞳に、ふとドキッとする。
(自分キモ……)
我に返って小さく息を吐いた。夜間高校の最初の方の授業内容は大抵中学レベルの簡単な復習だ。黒板を叩くチョークの乾いた音を聞き流しながら、私は頬杖をついた。
隣でページをめくる、シャリッというかすかな紙擦れの音。
彼は本当に口を開かない。授業中に手を挙げて発言することもなく、先生と目が合っても小さく会釈するだけ。クラスメイトと会話する様子なんて見たことがない。
休み時間になれば、何か本を読んでいるか、イヤホンで音楽を聴いているか、ひたすら予習をしているかの三択。
まるで自分の周りに、誰も踏み込ませない見えない壁を作っているみたいだった。
だから、彼に話しかけようという人は誰も居ない。
私が何故、彼に話しかけたいのか。それは、前に私の好きなラノベ小説「ブラック・オンライン」を読んでいたからだ。1部マニアにはすごく人気がある作品で、今年の10月には小規模だが原画展も開催される。それの話を彼としたい。の……だが。
タイミングを見計らって話しかけようとすると周りのクラスメイトが止める。
『彼奴には話しかけても無視されるだけ。』
と口を揃えて皆言った。
1年生の始めの頃は、他クラスでも注目の的で彼のちょっとしたファンクラブのような物があったが、話し掛けた女子2人を殴ったとか、20歳になって高校来たのは中学の時に暴力事件起こして捕まったからだとか。とにかく酷い噂急に広まりそれをきっかけに、誰も話しかけなくなった。
それでも話し掛けたいと思うのは、私がその噂自体を信じていないからだ。周囲の勝手な憶測で、私のオタ仲間が増えるチャンスを無駄にしたくない。まぁ結局は私のわがままのようなものだ。正直興味本位もある。
でも、それでも。
何も知らない彼のことを、何も知らない他の人がどうこう言うのは違う。
私は彼を知るために、ずっと話しかけるタイミングを探してる。