ほわいとちょこれーと!─幼馴染みと恋するホワイトデー
 店の人に品物を受け取ると再び走り出す。

 自転車に乗り、元来た道を辿っていく。


 下ってきた長い坂は今度は行く手を阻むような上り坂。
 私は必死になってペダルを漕ぐ。

 漕いでも漕いでも前に進まない。腿がつるほどきついのにスピードは上がらず、やがて止まってしまう。
 仕方なく下りて自転車を押して坂を上る。


(もう!急いでるのに!!)


 急坂を押して上る時の自転車はいつもより遥かに重く感じる。
 その重い自転車を押しながら私はどんどん早足になっていく。

 息が切れ、3月の暮れ方というのに額に背中に汗が流れる。


「はぁ…はぁ…」


 やっとの思いで頂上にたどり着き、私は休む間もなく自転車に跨がった。


 紫色の春の黄昏の空の下、坂を下り始めると冷たい向かい風が汗を冷やし、背中やお腹にしっとりと冷えたシャツが張り付き身震いした。


 どうにか家の方へと曲がる交差点に着いたけれど、今度は眼の前で信号が赤に変わってしまう。


(こんな時に限って!)


 ただでさえ長い大きな通りを渡る信号が、今日は取り分け長く感じる。思わず足がとんとんと地面を叩く。


 ようやく信号が変わると同時に私は走り出す。

 家へ続く道をひたすら真っ直ぐ自転車を走らせる。


(早く、早く!)


 もう暑いのか寒いのかも分からない。

 今はただ早く千早に会いたかった。


「はぁ…はぁ…」


 やっとの思いで家の門をくぐった頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。

     *  *  *
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