転生王女のまったりのんびり!?異世界レシピ
 馬車に酔うといけないからと、朝食は軽いものが用意された。その朝食を、ニイファと一緒のテーブルについて食べる。

 王宮でとる最後の朝食は、ハムとチーズが挟まれたサンドイッチ。それからオレンジと桃を食べやすい大きさに切ったものだった。パンはふんわりと焼き上がり、果物の甘みも十分だ。

 紅茶に砂糖とミルクをたっぷりと追加して、甘さでざわざわする気持ちを落ち着けようとした。

 朝食の後、父との最後の謁見のために、ヴィオラは謁見の間に向かう。

 ニイファが用意してくれた旅行用のドレスは、灰色に赤いチェックが入った可愛らしいものだった。足首の少し上までくる長さのスカートは、ヴィオラの歩みにつれてゆらゆらと揺れる。

(変なの。今までずっとここで生きてきたのに、初めて来る場所みたい)

 王宮最後の朝食をとっている間も、それから、今、こうやって長い廊下を歩いている間も。

 ヴィオラは自分の記憶が馴染んでいないことを、自覚せざるを得なかった。

 三宅咲綾の記憶では、両親は洋食店兼カフェの『アンジェリカ』を経営していて朝から晩まで忙しく働いていた。咲綾の面倒を見てくれたのは、同居していた祖母が中心だ。

 店にいる両親の姿を見るのが好きで、いずれは両親の店を継ぐと決めていた。

 大学で経営学を学ぶだけではなく、料理の専門学校に通う予定で、そのために、高校時代のアルバイト代はほとんど貯金してきた。

 第一志望の大学に無事合格した咲綾の人生計画は、明るいものだったのだ。

 ――それなのに。

「ヴィオラ様?」

 立ち止まってしまったヴィオラに、ニイファが困ったような目を向ける。

(そうよね、ニイファに心配させるわけにはいかないもの)

 何事もなかったふりをして、ヴィオラはにっこり微笑んだ。

「ごめんなさい。ちょっとぼーっとしてた」

「出立前ですもの。気が重くなるのもわかりますわ」

 ニイファはヴィオラに同情的なようだ。

 このイローウェン王国と国境を接するトロネディア王国の間に、国境線をめぐっての争いが始まったのは昨年のこと。

 半年近く続いた戦に終止符が打たれたのは、オストヴァルト帝国が仲裁に乗り出したからだった。

 多数の属国を従え、大陸の中心であると自負しているオストヴァルト帝国は、両国に圧力をかけてきた。これ以上、戦を続けるのならば、帝国としても動かなければならないと。

 帝国が仲裁に乗り出してきた背景には、トロネディア王国側に巻き込まれそうになった第三国からの要請があったからだと噂されている。
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