氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
事前に文で朔たちが戻って来ると知らせを受けていた十六夜は――不機嫌だった。

今まで百鬼夜行の当主が幽玄町を長い間空けたことはなく、何故隠居した自分がこんなに長い間屋敷の守りをしなければならないのかとぶつくさ息吹に漏らしていた。


「でも主さま、朔ちゃんは雪ちゃんが居ないと不安で夜も眠れない子だから」


「…それがいけないと言っている。第一妖の頂点に立つ男がそんな弱い心意気でいいと思っているのか」


――冷徹冷淡、冷酷無慈悲な十六夜は、朔が新婚旅行に出た氷雨を追いかけるようにして能登へ行ったことを不満に思っていた。

その代わりに屋敷を守らなければならずつまり気の抜けない状況で、居残っていた焔を緊張させて縮こまらせていた。

だが息吹はどこ吹く風で、団子をもぐもぐ頬張りながら縁側で足をぶらぶら。


「だって雪ちゃんは主さまよりも多くの時間を朔ちゃんと過ごしてきたでしょ?その辺の言い分は?」


「……ない」


「でしょ?雪ちゃんは主さまより父親らしくてお兄ちゃんらしいことをしてきたんだから、雪ちゃんに呼ばれたら行っちゃうよ。だから私は朔ちゃんを叱りません」


「……俺もそうする」


最終的には折れたものの――文には不穏なことが書かれてあった。

半妖を連れて帰るということ、そしてその半妖の赤子に人食いの気があると晴明が踏んでいること――

幸いにも我が子たちには人食いの気はなかったものの、それを懐に受け入れるには相応の覚悟が要る。


「…あれは繊細だ。手にかけるようなことになれば…俺がやる」


「主さま、きっと大丈夫だよ。私たちが親身になって育ててあげればきっと…」


「本性は隠し切れるものじゃない。……俺は朔の手を汚させたくない。だから息吹…お前は分かってくれるな?」


「うん。私たちの子のためだもの…私だって覚悟して主さまを支えるから」


――息吹は今でも隠居した十六夜のことを‟主さま”と呼ぶ。

冷血に見えても十六夜のことを信じて疑わず、何があっても傍にいると夫婦になる夜、誓った。


「…ああ、分かってる」


「分かってるならいいの」


指を絡めて握り合い、再度誓いを交わし合った。
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