氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
翌日の早朝、朔を出迎えた氷雨は、すでに身支度を整えて客間に集まっていた。

如月たちも一緒に幽玄町に戻ると聞いた朔の圧倒的な美貌に微笑が上ると、如月は転がるようにして朔の前に出て背筋をすっと正した。


「朔兄様、ご迷惑をおかけすると思いますが…」


「いや、お前が帰って来てくれるのはすごく嬉しい。天満や輝夜も呼び寄せたい所なんだが…」


「天兄はあの場所から離れないでしょう。輝兄は…」


――次男の輝夜は神出鬼没のため、滅多に戻って来ない。

使命があり、助けを求める者の傍へ行って救いの手を差し伸べる――それが輝夜の役目だ。

朔は輝夜の話になると、いつも少し寂しそうになる。


「とりあえずさ、先代の意見も仰ごう。ここずっと屋敷の留守番してもらってるから機嫌悪いだろうなー」


「いや、父様は母様が傍に居ればいつも上機嫌だから問題ない。とにかくお前はお前らしくしていればいい」


朔に頭を撫でられて照れ笑いを浮かべた如月は、朧の腕に抱かれて大人しくしている赤子を指して再度確認をした。


「あれの存在が悪い結果となった時…朔兄様、私が傍に居ますからね。ひとり苦しい思いには決してさせません」


「俺も」


「私も」


氷雨と朧が続き、感謝した朔は少し仮眠を取った後、大きく伸びをして欠伸を噛み殺しながら庭に出た。


「じゃあ戻ろう。如月、屋敷は空けておいていいのか?」


「はい、うちの使用人たちと泉の母上たちはしっかりしているので」


「ん。じゃあ引き続き泉は我が屋敷にてお祖父様の施術を受けてくれ。それ位しかできることはないが」


「いえいえ、それだけで十分です。如ちゃんと一緒に居れるなら僕はどこでも」


「や、やめろ!あと人前で如ちゃんと呼ぶなと何度言えば!」


夫婦喧嘩が勃発し、朔はそれをにこにこしながら見つつ空を蹴った。


「雪男、置いて行くぞ」


「ちょ、待って!朧、ちゃんと乗ったな?じゃあ出発!」


晴明の式神が引く空を駆ける牛車に朧たちを乗せた後、氷雨と銀は朔を中心に飛び立って一路本拠地の幽玄町へと向かった。
< 126 / 281 >

この作品をシェア

pagetop