氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
空を飛べる妖にとって幽玄町はさほど遠くなく、すぐに帰れるだろうと思っていた。

若干後ろ髪引かれる思いで発った流水は、昼前には都に着き、人の住む平安町と幽玄町を隔てて存在する幽玄町――本当に人と妖は手を取って生きれるのだなと感慨深くなっていた。


「百鬼夜行の当主に会いたい」


「主さまはご多忙でそう易々とお会いできん」


「待つ。大事な話があると伝えてくれ」


幽玄町の中央に立つ山のように大きな赤鬼と青鬼は、流水の無表情をちらりと見て頷いた。

…すぐに会えるとは思っていなかったが、数日留守にするのはつらい。

共に生きると決めたからには離れ難く、数日かかるのならば一旦戻ろうと決めて踵を返した。


「ちなみに主さまとやらはどんな男だ?」


「主さまはとてもお強くとてもお美しく、気さくでお優しく俺たち百鬼を労わって下さる。貴様もお会いすればすぐに分かる」


「…」


やけに慕われている。

そんな男ならばきっと無下にはしないだろうと少し胸を撫で下ろすと、今度は最速で都を離れて綾乃の元に向かった。

その道中――妙な胸騒ぎを覚えた。

空を駆けていると、前方に煙が立ち、それが…綾乃の住む里からだったからだ。


「なんだ…?」


訝しみながら警戒しつつ里のすぐ傍で下りた流水は、気配を悟られないように押し殺しながら里に近付いた。


「ぎゃー!」


「こっ、殺さないで!」


悲鳴が聞こえた。

走った。

走った。

走って走って――嘘だと何度も呟きながら走った。


だが流水は、道の傍で、それを見つけることとなった。
< 244 / 281 >

この作品をシェア

pagetop