氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
朧は背中が敏感なこと位すぐに気付いていた。

あの夜――北の地で朧をはじめて抱いた時からそれを知っていた氷雨は、上半身だけ浴衣を脱がせてうつ伏せにさせると、唇で背中を愛して吐息を上げさせていた。


「お師匠様…っ」


「俺、意外と忍耐強く優しく抱いてるつもりだけど、あんまり訳分かんねえこと言うと乱暴にするからな」


「え…っ、待って、そんなお師匠様も絶対好き…」


「つまり俺のこと全部好きなんだろ?それそっくりそのままお前に返すから」


夫婦になってから屋敷の一角を朔にあてがわれた氷雨は、そのうちの寝床にしている部屋に朧を連れ込んで、耳たぶを齧った。

齧ったり噛んだりすることが鬼族の愛情表現なため、そうされると余計に感度が増してしまった朧は、寝返りを打って覆い被さっている状態の氷雨の真っ青でさらさらな髪に指を潜らせた。


「知ってます。でも詰らずにはいられないんです。私…嫉妬深いから…」


「知ってます。…なんだよその顔は。ちゃんと抱けってか?」


「だってこんなの…焦らさないで…お願い…」


「じゃあ遠慮なく」


にこっと笑った氷雨の笑みに見惚れた朧は、氷雨の肩口に手を入れて真っ白な浴衣を脱がせた。

…いつ見ても均整がとれていて細いが男らしい身体つきの氷雨を幼い頃から大好きで仕方なかった朧は、目に涙を滲ませてまた笑われた。


「なんで泣いてんだ?」


「だって幸せすぎて…。お師匠様、私のこと好きって言って?」


おねだりされて肩を竦めた氷雨は、朧の首筋に唇を這わせて耳元で囁いた。


「朧…愛してる」


「私も…っ!大好き…愛してます…ずっとずっと…」


「よし、じゃあ期待に応えてちょっと乱暴にしてやる。文句言うなよ」


帯を解いて妖しく唇を吊り上げて笑った。

何度も何度も熱っぽく愛を囁き合い、笑い合った。
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