悲しみの理由を忘れた少女
〜クエスチョンマークが浮かぶ〜

そんな彼ともただ席が隣になっただけといえばそれだけ。

私とはあの『よろしく。』
以来何も話はしていないけれど、一週間も経つと彼の周りにはたくさんの人が溢れていた。

「歩美(あゆみ)、帰らないの?」

放課後、そんな事を考える私に由梨が話しかける。

「あ、ごめんボーッとしてた。帰ろっか。」

教室を見渡すともうほとんど生徒は残っていなかった。
私は席を立ち、鞄を手にする。

「歩美さん。」

教室を出ようとした時、担任の佐藤先生が私を呼び止めた。
何だろうと思っていると、先生は少し目を泳がせる。

「何ですか?先生。」

先生が、少し困った様子で私を見つめた。

困った様子?

いや、少し違う。
哀しみ?憐れみ?

そんなものが含まれているようなそんな表情に私には見えて、体が強張る。

「んー。やっぱり何でもない。」

先生はそう言って「気をつけて帰ってね。」と手を振った。

何なのだろう?と私の頭の上にはたくさんのクエスチョンマークが浮かぶ。

「何だったんだろう?」

私は由梨と一緒に首を傾ける。

「歩美何か悪い事したんじゃない?」

由梨が冗談混じりに聞いてくる。
私は本当にそうなのではないかと少し不安になる。

「冗談冗談。そんな不安そうな顔しないでよ。歩美なら悪い事より良すぎて困るの方だよ。」

由梨はそんな事を言って笑っている。

「笑い事じゃないよ。あんな様子でやっぱり何でもないって不安しかないよ。」

そう私が言うと由梨は一層笑った。
< 3 / 36 >

この作品をシェア

pagetop