紡ぐ〜夫婦純愛物語〜
それでも、私は何が起こったのか飲み込みきれずにいると、心配そうに母がのぞき込んできた。

「セン、嫌なの?」

「い、いえ。嫌と言うわけでは。ただあまりに突然のことなので驚いてしまって………。お相手の方がどの様な方かもわかりませんし………。」

私が戸惑いながら言うと、父がピシリと言った。
「私達も顔も知らないまま夫婦になった。しっかりとしたお家の方で身元もしっかりしている。そんな事は気にする必要などない。」

それも、そうだ。お見合いをして、と言う事もあるが親の決めた相手と結婚するのはあたりまえだ。それに対して文句があるわけでは無い。

ただ、見知らぬ相手の家に嫁ぎ、見知らぬ相手と今日からここが貴方の家でこの人が貴方の旦那様です。なんて言われても困るし戸惑うし、何より不安だ。

その不安を分かってほしかっただけなのだが、父にそんな事は求めるべきではない。

呉服屋として商いをし、江戸から明治へと激動する時代に店と屋号を守り続けた父である。それは、商売の才は勿論のこと、その厳格さと妥協を許さぬ性格から成せたものであろう。

『不安』などと言う言葉は父の辞書には無いのかもしれない。

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