紡ぐ〜夫婦純愛物語〜
私は覚悟を決めた。厳格な父ではあるが、私の事をとても大切にしてくれている事くらい知っている。そんな父が快諾した縁談だ。悪い話では無いはずである。

姿勢を正し、父を見据えた。
「父上。そのお話謹んで、お受け致します。宜しくお願いいたします。」
そう言って、頭を下げると父は短く
「わかった」
と、だけ言った。

席を立った父とは違い、母は私に近づき手を握った。
「セン。とても不安でしょう。分かるわ、私もそうだったもの。知らない人の元へ嫁ぐだなんて不安よねぇ?でも、分かって上げてちょうだい。あの人は、いつだって貴方の幸せを願っているのよ?そんな、あの人が持ってきた縁談ならって、私も了承したの。」

覗き込むように、見てくる母の手を握り返し、
「分かっていますよ、母上。私も父上が、快諾したのならと思い、お受けしようと思ったのですから。」
そう答えた。

「私は、初めてあの人に会ったとき無愛想でとっつきにくくて、この人と上手くやっていけるかしら?って思ったけれど、今ではあの人と一緒になれて良かったと思っているわ。呉服の事なんてなんにもわからなかったから最初はお義母様にもたくさん怒られたりして大変だったけど、それでも今はこうして女将をやってるわ。だから、人生は結局行き着くとこに行き着くようにできてるんだって思うの。何処へ行ったって大丈夫よ。貴方は私と、あの人の娘なんですもの。」

笑顔でなだめるように、優しい言葉をかけてくれる母。本当に、私は母上と父上に愛されていると思うと、この家を離れる事への悲しさで涙が溢れてきた。

「あらあら、まだ泣くのには早いわよ。嫁入りの日まで、しっかりと花嫁修行しなくてわね。」
そう言って、私の涙をそっと着物の袖で拭ってくれた。

それから、ひと月ほどたって私は野崎の家へ嫁いだ。
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