君と僕のキセキ

 大学のボロ小屋にいる僕と、公園のベンチにいる彼女。二人の声は、不思議な石を通して繋がった。



 物理法則を完全に超越した不可解極まりない現象に、頭が追い付かないでいる。

 しかし同時に、心のどこかでは受け入れている自分がいた。



 二年前、空から落ちてきた光を見たときや、石を拾ったときに感じた不思議な何かが、今たしかに証明されている。



 僕たちは、声が聞こえる範囲を調べるために簡単な実験を行った。

 最初に、「聞こえますか?」「聞こえます」という会話を繰り返しながら、彼女はその場を移動する。

 その結果、ベンチから二メートルほど離れると僕の声は聞こえなくなるようだった。



 同じように僕も石を持って小屋の中を移動してみたり、小屋の外に出てみたりした。小屋の外でも声が届かないことはないが、何を言っているか聞き取れない。

 基本的に彼女と会話が成立するのは、小屋の中と言ってよさそうだ。



 次に、二人で同じ方角に移動しながら、声が届くかどうかを試した。位置が同じ方角に同じ距離だけずれていても、会話ができる可能性があるのではないかと考えたのだ。



 結果は予想と違うものだった。やはり彼女はベンチを中心に半径二メートル程度、僕は小屋の中にいるときにしか声が聞こえなかった。



〈つまり、ある決まった空間に二つの石が存在する場合に、私たちは石を通して音声をやり取りできる。こういうことでしょうか〉

 彼女は、簡潔に実験の結果をまとめた。

「はい。おそらくは」



 この現象はもちろんだが、平然と理性的なやり取りができている彼女に対しても、僕は驚いていた。

 声と話し方の感じからして、まだ中学生か高校生くらいだろう。



 いきなり知らない男の声が聞こえてくれば、パニックに陥るのが普通なのではないか。僕ですら動揺していたのに。
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