剛力家の三兄弟
第1章 人生でもっとも災厄の1日

私は短大を卒業後、通信販売専門に洋菓子を販売する、食品会社のコールセンターに勤務する、佐伯真奈美(23)

毎日お客様から寄せられる、ありがたーいお言葉を頂き、日夜めげずに仕事に励んでいる。

今日は12月23日(金曜日)
早番の私は、18時に仕事が終われば愛する恋人、弘樹と楽しいクリスマスを過ごせるのだ。

弘樹とは付き合いだしてちょうど1年になる。
弘樹は記念日を大切にしてくれる優しい人で、私の誕生日には「君が生まれた大切な日だから」と誕生日の前後を含めて3日間、ホテルに宿泊してお祝いしてくれた。

今日23日は、弘樹と出逢い、恋人になった大切な記念日、そして明日はクリスマスイヴ。だから、ホテルでお祝いしようと前々から弘樹が言ってくれていた。

クレーム対応の多い部署だが、この後のことを考えると、お客様に何を言われてもへいきだ。
あと数時間だ! 頑張れ私!

後10分で勤務が終わろうという時に、新たな電話をうけた。
なんでも、注文した商品と違う品物が届いたと言う。

「大変申し訳ございませんでした。直ぐにご注文頂いた商品を送らせて頂きます。」

『はぁ? 取り替えれば済むって問題じゃないでしょ!?』

「はい。お客様のおっしゃる通りで御座います。」

相手の見えない電話だが、私はひたすら頭を下げるしかない。勿論、私が悪い訳ではない。悪い訳ではないが、この場合謝るしかないのだ。

『返品!返品よ!お金返して!?』

そう。クレームの場合はいつも最後はこうなる。

「畏まりました。すぐに返金の手続きを取らせていただきます。それで…もし、宜しければ、お届けした商品はお客様の方でお召し上がり頂けたらと思いますが?」

商品を間違えて送ってしまったのは、こちらのミスなのだから、商品代金は頂けないし、消費期限の短い商品は、着払いで返品してもらっても、商品は処分しなくてはならない。
 
ましてや今回はクリスマスケーキ。
送料や処分に掛かるコストを考えたら、お客様の方で食べるなり、処分して貰った方が会社も助かる。
お客様の方も返品手続きの面倒がない為、ほとんどのお客様がこれで納得される。

こうしていつもの様に、私はマニュアルに沿って対応していた。

しかし、この日ばかりは違った。




< 1 / 142 >

この作品をシェア

pagetop