彼のゴール、わたしの答え

「院卒ってだけで色眼鏡で見られてた俺に、周りと同じように接してくれるのはお前だけだった。淡々と仕事の話だけして、淡々と仕事こなして、なのに周りのこともよく見てて、さっとフォローしてくれて……。俺にだけじゃないってのは知ってる。むしろだからこそ、目が離せなかった」

「あー、うん」

こんなに真正面からこられたのははじめてで、かなり照れる。でも、わたしのそこがいいという人は、彼だけではなかった。
彼のいうとおり、わたしは誰にでも同じように対応する。"血の通った"ロボットみたいなものだ。そこにわたしの意思は何もない。

「お前に、すごく助けられたんだ。だから今度は、俺がお前の癒しになりたいし、一歩踏み込める存在になりたい。というか、多少はなれてると思ってる。違う?」

なんと答えたらよいかわからず、無言で彼を見つめる。
無言を肯定と受け取ったのか、自信のこもった声で再び

「だから俺と結婚を前提に」
「ランチお待たせしましたー」

いいかけたところに、絶妙なタイミングで店員さんが来てくれた。

「食べながら、わたしの話を聞いてくれる?」

頼んだパスタの麺をくるくるとフォークにからませながら言う。

「わたしね、子どもが産めないの」

ハッと息が止まったのがわかる。

「高校生のとき、ちょっと事件に巻き込まれて、子宮がひどく損傷してしまって、その関係で子宮を摘出したんだよね」

特に隠しているわけではないが、それなりにプライベートな話なので、過去付き合った男性にも、全員には話していない。
いちいち説明して、哀れに見られるのも面倒なので、将来をほのめかされたら、独身主義だからと伝えて、予防線を張った。
ひとりの人と深く付き合わないように気を付けて、恋人なのに壁をつくって、それを乗り越えようとされたら、子どもが望めない話をした。
みんな悩むけど、最終的には離れていった。
そんなもんだ。

「わたしたち、三四歳でしょ。さっき結婚を前提にっていってたけど、付き合っても、わたしたちに未来はない。子どもを産めないって最初からわかってる嫁なんて、ご両親が納得しないよ」

三十才を過ぎてからは、告白されることもなくなったし、無責任に付き合って別れるわけにもいかないので、恋人自体を作るのをやめた。
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