一目惚れの彼女は人の妻
 田中部長に付いて入ったのは、会社からほど近い所にある、高級、かどうかは分からないけど、古風な門構えの料亭だった。

 そして、仲居さんに案内してもらって入った広い和室には、何度見ても素敵で可愛い俊君がいた。彼に向かって軽く会釈したけども、私は早くもドキドキが止まらない。頬が熱いから、きっと赤い顔をしてると思う。

 私は田中部長の隣に座り、懇親会という名の飲み会が始まったのだけど、俊君が遠い。遠過ぎる。軽く3メートルはあると思う。とても会話出来る距離とは思えない。

 充さんが言った通り、早々に田中部長の独演会になってしまった。やれ日本人横綱が久しぶりに出来たのに残念だとか、巨人は原監督の再々任で巻き返すだろうとか、私には全く興味がない話を延々としていた。

 相槌を打つ開発会社の人達が可哀想だったけど、俊君だけは丸っきり無視って感じで、時々私の方を見ては、お料理を淡々と食べていた。

 そういう私も、田中部長の話は聞き流すようにして、懐石料理を摘まんでいた。流石に懐石料理はとっても美味しいのだけど、食いしん坊の私にはちょっと物足りなく、時々注いでもらってビールをチビチビ飲むけど、自他共に認める酒豪の私には全然足りない。

 懐石料理には日本酒でしょ? 誰か私に冷酒をください。熱燗でもいいわ。

 そう思っていたら、田中部長達は熱燗を飲みだしたのだけど、私には注いでくれなかった。若い女性は熱燗を飲んではいけない、という決まりでもあるんだろうか。

 こんな飲み会、早く終わればいいのに……
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