一目惚れの彼女は人の妻
「今から? どうして?」

 どうして、かあ。ん……

「あ、ピラニアだよ。ピラニア、見たいだろ? ねえ?」

 咄嗟に思い付いたのがピラ男だったのだが、これはちょっと失敗だろうな。ピラニアを見たい女子なんて、そうはいないだろうから。

「うん、見たい見たい」

 うそだろ? 実際のところ、嘘だと思う。宏美の顔、赤くなってるし。

「じゃあ、行こうか?」

 宏美の気が変わらない内に、という事で、俺達はさっさとタクシーに乗り込み、運転手さんに俺の家を告げた。

 家に着くまで、隣で宏美がソワソワしてたと思うのは、たぶん気のせいではないと思う。

「ご両親とか、いらっしゃるの?」

 俺の家の前でタクシーから降りると、宏美は急におじけづいたようだ。

「いると思うよ」

「急におじゃましたら、迷惑なんじゃない?」

「そんな事ないし、今更だろ?」

「それはそうなんだけど……」

 開錠してドアを開き、誰に言うともなく「ただいまー」と言いながら、もじもじする宏美の背中を押し、俺達は家の中に入った。

 宏美に靴を脱いでもらい、このまま2階の部屋に直行しようかな、と思ったのだが、

「お帰りなさい……あらま」

 おふくろが来てしまった。当たり前だが、宏美を見てびっくりしている。
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