オフィスの野獣

 西城斎にしばらく手を握られたまま廊下を歩いていく。
 この場をどうしていいかもわからず、無抵抗で彼についていくしかなかった。頭はとうにパンク寸前だった。なんだか身体がだるいし、熱い。

「……ていうか、熱くないか? 手」

 ふと前にいる彼にもそう指摘されて、自分の中の気持ちとシンクロしたことが無性にムカついた。こんな奴に心まで見透かされるなんて、心外だ。気色悪いことこの上ない。
 しかし次から次へと身に余る不運な出来事が起こったからか、冷静な思考に疲労が重なっていった。

「……え?」

「もしかして熱……」

 西城斎が何か言いかけたところで、バタンと視界が暗転した。自分でそれに気づくこともないまま、私の身体がその場にくず折れた。身体中の倦怠感に浮かされて、そのまま意識も薄れていった。

 私の容態の異変に気づいた彼が、間一髪で私の身体を支えてくれたけど、予測していない事態に彼も戸惑ったようだ。

「え、ちょ、藤下さん!?」


 軽く身体を揺すられても、私が起きる気配はなかった。
 その熱い身体を支えられて、私は不覚にも大嫌いな男の胸に抱きかかえられて、この時もこの身を任せるしかなかった。

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