見上げる空は、ただ蒼く
お母さんが飲酒をはじめて
から私のなかで失われていた
家族の愛の暖かさを感じて、
思わず涙が零れそうになる。

「じゃあ、私は仕事に行くわ。
奏、あとはよろしくね。」

そう言って紗綾さんは病室の机に
置いていたスーツを羽織って
仕事に出掛けていった。

ぱたん、とドアが閉まる軽やかな
音がして、私は病室で奏と
2人っきりになった。

「結乃。」

名前を呼ばれて顔をあげる。
そこには、奏の苦しそうな
表情があった。

「ごめんな。結乃の辛さとか
分かってやれなくて。結乃が
辛い想いしてんのになにも
してやれないのがもどかしい。

もっと早く出会っていれば
PTSDもここまで酷くなかった
かもしれないのにな。」

吐き出される言葉の全てが、
奏の私に対する愛だった。

奏はなにも悪くないのに、私が
体調を崩す度に彼が1人で
自分を責めているのは
うっすらとだけど知っていた。

でも、ここまで深刻に
思い詰めていたなんて。
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