恋する耳たぶ

彼が、長髪派じゃなくてよかった。

ベリーショートとまではいかないけれど、短めに整えられた髪のおかげで、私はいつでも彼の素敵な耳を見ていられる。

「紬未(つぐみ)ちゃん?」

コーヒーを飲む彼の耳に見とれていたら、ぼうっとしてしまっていたらしい。

「どうかした?」
「いえ、あの……」

あなたの耳に見とれていました……なんて。
言えるわけもないので、なんとかうまい言い訳のネタはないかと必死に店内に視線を巡らせる。

「あ、あの、テラス……」
「テラス?」

とりあえず、目についたものを口にしてみると、匡さんは律儀にも体をねじって、自分の後ろ側にある中庭のようになったテラス席の方を見てくれた。

「ああ、テラス席があったんだね、ここ」

入って来た時に、素敵ですね、と言った私に、うん、と、慣れた感じで返していたから、よく来るお店だとばかり思っていたけど。

そういうわけじゃない、のかな?

心の声が顔に出てしまっていたのか、こちらに向き直りながら言った匡さんは、私の顔を見るなり、しまった、という表情に変わった。


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