人魚姫の涙
「ねぇねぇ、写真撮って! パパに送る!」


未だ放心状態の俺に、紗羅は嬉しそうに飛び跳ねている。

その度に長い髪が揺れて、甘い香りが広がる。


「あんまり飛び跳ねると、壊すぞ」

「あ、本当だ。破れちゃったら大変だよね」

「だ、大丈夫です! 気にしないで! ちょっと、こっちのティアラもつけてもらえる?」

「は~い」


瞳を輝かせる塩谷のリクエストに応えて、紗羅も楽しそうに色んなアクセサリーを付けたり外したりしている。

確かに、女の人からするとウェディングドレスなんて一生の夢だよな。

これでもかと楽しそうにする2人を見て、無意識に笑みが零れる。


「ねぇ~成也、どっちがいい?」

「どれ?」

「こ、これとこれです! 私はこっちの方がいいと思うんですけど……」

「じゃぁ、そっちでいいんじゃね?」

「も~成也、真面目に考えてよ!」

「そうですよ! 男性の意見も重要なんですから!」

「――」


もうすぐ、夏も終わる。

だけど、今までみたいな空虚は感じない。


「成也、見て~!!」


紗羅と一緒にいれば、どんな時でも世界は輝いているから――。
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