人魚姫の涙
あれから、あっという間に夏は過ぎて行った。
あんなに煩かったセミの鳴き声は消え、長かった昼も少しずつ短くなった。
微かに秋の気配のする中、今日は大学の文化祭だ――。
◇
「あれ? 紗羅ちゃんは?」
ガヤガヤと煩い校内。
キョロキョロと辺りを見回しながら、和志と雅樹がこっちに向かってきた。
「さっき、演劇部の奴に連れて行かれた。準備があるんだろ」
「あぁ~妖精ちゃんのドレス姿楽しみぃ~。今年の学祭のポスター写真、あれも妖精ちゃんなんだろ?」
「あぁ。みたいだな」
あのドレスを試着していた時、ちょうど執行部の奴が通りかかって、ぜひ学祭用のポスターにさせてほしいと申し出てきた。
塩谷は渋っていたけど、後ろ姿で白黒写真なら許すという許可を得て、急遽撮影した。
おかげで今年のうちの大学のポスターは、どこかの舞台の宣伝ポスターの様に立派だった。
「紗羅ちゃん効果で、今年は来場者数が去年の2倍だってよ。まぁ、みんな夕方のショー目当てだろうな」
「へぇ」
「紗羅ちゃんはもちろんだけど、いつもどこか冷めてるお前がショーに出るなんて言うもんだから、大学の女子は騒いでたぞ」
そう言って、妖しい笑みを浮かべる和志。
そして、周りをキョロっと見回してから、俺にも見るよう促した。