人魚姫の涙

あれから、あっという間に夏は過ぎて行った。

あんなに煩かったセミの鳴き声は消え、長かった昼も少しずつ短くなった。

微かに秋の気配のする中、今日は大学の文化祭だ――。





「あれ? 紗羅ちゃんは?」


ガヤガヤと煩い校内。

キョロキョロと辺りを見回しながら、和志と雅樹がこっちに向かってきた。


「さっき、演劇部の奴に連れて行かれた。準備があるんだろ」

「あぁ~妖精ちゃんのドレス姿楽しみぃ~。今年の学祭のポスター写真、あれも妖精ちゃんなんだろ?」

「あぁ。みたいだな」


あのドレスを試着していた時、ちょうど執行部の奴が通りかかって、ぜひ学祭用のポスターにさせてほしいと申し出てきた。

塩谷は渋っていたけど、後ろ姿で白黒写真なら許すという許可を得て、急遽撮影した。

おかげで今年のうちの大学のポスターは、どこかの舞台の宣伝ポスターの様に立派だった。


「紗羅ちゃん効果で、今年は来場者数が去年の2倍だってよ。まぁ、みんな夕方のショー目当てだろうな」

「へぇ」

「紗羅ちゃんはもちろんだけど、いつもどこか冷めてるお前がショーに出るなんて言うもんだから、大学の女子は騒いでたぞ」


そう言って、妖しい笑みを浮かべる和志。

そして、周りをキョロっと見回してから、俺にも見るよう促した。
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