人魚姫の涙
「紗羅~? 先に風呂入れよ」
「いいの~? じゃぁ、お先に!」
立派な木目の大きなテーブルを一生懸命拭いていた紗羅が、手を止めてパタパタと風呂場へ向かった。
紗羅は昔から、ご飯の後はすぐ寝てしまう。
食後に入ると風呂で爆睡。って事もしばしば。
だから、こうやって早めに風呂に入ってもらってる。
子供の頃から変わらない姿に、この事を知った時には笑ったもんだ。
「バスタオル持ったか~」
バタバタと部屋の中を動き回ている紗羅に、洗い物をしながら問いかける。
遠くの方から「持った~」という声を聞いて、無意識に笑みが零れた。
いつもは俺が作っているのに、珍しく今日の夕飯は自分が作ると言い張った紗羅。
俺の好きなハンバーグを作ると朝から意気込んでいた。
見た目は、まぁ黒い部分が多かったけど、味はそれなりだった。
俺が美味しい。と言うと、ウサギみたいにその場で小さく飛び跳ねて喜んでいた。