人魚姫の涙
「おはよ~」
ボーっとする頭でリビングに下りる。
強烈な朝日に目が眩む。
キッチンから漂う、いつもの香り。
いつもの朝。
――のはずだった。
「Buona mattina!」
「ぅわぁっ!!」
聞き慣れない言葉が聞こえたかと思った瞬間、どんっと前から何かが飛び込んできた。
まだ半分夢の中にいた俺は、強制的に現実世界に引き戻される。
「な、何!?」
「おはよ! 成也っ」
ふんわりと香る甘い匂いと共に飛び込んできたのは紗羅だった。
俺の胸にぎゅっとしがみついたまま、にっこりと嬉しそうに微笑んだ。
「ど、どした?」
「どしたって、朝の挨拶だよ?」
そう言って、思わず見惚れてしまいそうな美貌でニッコリ笑ったかと思うと、背伸びをして頬にチュッとキスをしてきた。
その瞬間、一気に自分の顔が赤くなるのが分かったけど、身動き出来ずに固まった。