人魚姫の涙

「成也は?」


そんな時、不意に俺の方に視線を投げた紗羅がニッコリと微笑む。

慌てて視線を逸らした俺は、再び素っ気無く言葉を落とす。


「俺は大学で授業」

「そっかぁ――…あぁっ!」


俺の言葉に一瞬シュンとした表情を浮かべた紗羅だったけど、何かを思いついたのかパァっと顔が明るくなった。

百面相だなと思って笑いそうになった俺に、紗羅は嬉しそうにニコニコと微笑んだ。

その表情が遠い昔に見た顔と重なる。

あれは何かを企んでいる時の顔だ。


案の定、紗羅はその表情を崩す事なく俺に視線を戻す。

そして、真っ青な瞳を細めて嬉しそうに言葉を落とした。


「今日の予定決まったよ」

「……何?」


なんとなく嫌な予感がする。

そして、その予感は的中した。


「成也の大学に行く」

「えぇ!?」


今日はいつもの朝とは違う。

いや、今日から全てが変わっていく――。


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