【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
無意識に頭の布をずり下げると、目ざといらしい男が何かに気が付いたような表情をした。

「……あれ?あんた、もしかして昨日、村で騒ぎになってた子か?」

今、最も恐れていた事を言われた。
カヤは、慌ててぶんぶんと首を横に振った。

「いや、でも今ちらっと見えた髪の色が……」

そう言って、その男性はわざわざ這い寄り、頑なに俯くカヤの顔を覗き込んできた。


――――ぱちり、と一直線に眼が合う。

(あれ、意外にも綺麗な眼)

それなのに、とても力の強い眼。


その双眸がカヤをしっかりと見据え「ああ、やっぱりな」と細まる。

一瞬気を取られたカヤは、その表情を見てハッと意識を取り戻した。

「あんたやっぱり、あの金の髪の子……っておい!?」

男が何かを言い終わる前に、カヤは茂みから飛び出した。
いや、飛び出そうとした。

「おい、待て!まだ行くな!」

一瞬で伸びてきた腕に、またもや体を絡めとられた。

「っ、はなして……!」

じたばた暴れるが、意外と力の強いその腕はカヤを離そうとしない。

背中に当たる男の身体も、腹に回るその腕も、固くて強くて、びくともしない。
自分の体つきとは全く違うそれが、とにかく怖かった。

「落ち着け!取って食いやしねぇよ!」

「嘘だっ……!」

「まだあいつらが近くにいるかもしれねえだろ!出るのはもう少し待て!」

最もな事を、まるで叱りつけられるように言われた。

男の言っている事は正しい。
動揺しきっていた頭の隅に、僅かに冷静な空間が出来た。

「わ、分かった。分かったから、放して下さいっ」

とにかく自分を無遠慮に包む男の身体から逃れたくて、必死にそうお願いをする。

「……逃げるなよ?」

そう言いながらら、男は慎重にカヤを放した。

囚われていた身体が自由になる。
今すぐにでも逃げ出したい気持ちが溢れてくるが、ぐっと抑えて、カヤはその場に留まった。

大人しくなったカヤに、ふう、と息を吐きながら男はその場に腰を下ろした。

「素直でよろしい」

小さく笑われたが、嫌味なものでは無い。


「ま、座れば?」

ぽんぽん、と自分の隣の地面を叩く男に、カヤは眉を顰めた。

なんと言うか、やけに人懐っこい男だ。
馴れ馴れしいとも言う。

カヤは、促された場所から少し距離を取った所に両膝を付いた。
男が少しでも怪しい行動を起こせば、すぐにでも逃げられるような体勢だ。

カヤのその態度に、男は「傷付くなあ」とまた笑った。

「お前、名前は?」

なんとも中途半端な距離に居る男が、そう尋ねてくる。

「……カヤ」

「そ。俺はコウだ。よろしく」

すっ、と握手を求められたが、それには答えずにカヤは頭をぺこりと下げるだけにとどめた。

行き場を無くしたその手が宙を彷徨う。
コウは「ほんと、傷付くなあ」と似たような事を言って、手を引っ込めた。

「昨日はあんなに大声で啖呵切ってたのに、今日は無口だな」

うるさい。ほっとけ。

< 14 / 637 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop