【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「ど、どうされたのですか、翠様は?まさか呪いを解くのに失敗されて……?」
焦った様な調子でハヤセミがタケルに問いかけた。
その言葉にカヤは、自分の心臓が氷水に付けられたような衝撃を受けた。
"呪いを解く事に失敗すれば、私も命を失う"
翠の言っていた事が頭を支配する。
まさか、そんな、失敗したのか。
「……ぐっ、」
タケルの腕の中の翠が、苦しそうに息を吐いた。
「翠様!」
慌ててカヤが呼びかけると、その瞼が僅かに開いた。
いつもより光の少ない瞳が、ハヤセミを向く。
「案、ずるなっ……契りは、無事解けた……」
それだけ言って、翠はまたその瞼を閉じた。
それ以上は言葉を発するのが難しそうな翠に代わり、タケルが口を開いた。
「翠様の仰る通り、魂の繋がりは解けております。翠様がこのようになっているのは、呪いを解くべく非常に難しい巫術をお使いになられたため、その影響でございましょう。お二人の命に別状はありませぬ」
そのきっぱりとした口調に救われたのは、カヤだった。
良かった。本当に良かった。
カヤの心に一気に安堵感が湧く。
未だ翠は苦しんでいて、それを見ているのは辛かった。
しかし翠が無事だと分かり、それが涙が出るほどに嬉しかった。
「お、いっ……ほん、とうに、解けたのかっ……!?」
そんな声が聞こえ、カヤも、そして恐らくタケルもハヤセミも、ようやく弥依彦の事を思い出した。
「全然……ぐっ、楽に、ならないぞ……!」
地面に倒れ込んだままの弥依彦は、未だ苦悶の表情で悶えている。
答を求めるように、ハヤセミがタケルに問いかけた。
「なぜですか!?繋がりは解けたはずでは!?」
「繋がりが解けたとは言え、背信から成る苦痛がすぐ去るわけではありませぬ。残念ながら自然に引くのを待つしか無いでしょうな」
命が助かったと言うのに、弥依彦は絶望的な表情をしていた。
ハヤセミはと言うと、なんとも言えぬ表情のまま主君を見下ろしている。
彼にしては奇跡的だが、もしかすると憐れんでいたのかもしれない。
「我らはすぐにでもこの国を出た方が良いでしょう。翠様の仰られたように、あまりお2人が近くに居るのは芳しくありません」
翠を軽々と持ち上げながら、タケルが立ちあがった。
普段ならばそんな事は絶対に拒否するだろうに、横抱きにされている翠は抵抗一つしない。
ただただ身体を弛緩させたまま、されるがままになっていた。
「しかし、そのご状態で国を出る事は出来ますか?しかも、まだ夜でございますよ」
ハヤセミが戸惑ったように言った。
確かに、今の翠が馬に乗れるとは到底思えなかった。
「私が翠様を支えながら馬に乗りますので、ご心配にあらず。それに……」
タケルが言葉を切り、窓の外を見やった。
「もう、夜明けでございますから」
その言葉に、カヤもタケルの視線の先を向いた。
美しさに息を呑む。
連なる山の向こう側から、放射状の光の線を纏った太陽が僅かに顔を覗かせていた。
どこまでも続いていた宵を切り裂くように、強く、真っすぐに。
その光は、カヤ達を優しく照らしていた。
焦った様な調子でハヤセミがタケルに問いかけた。
その言葉にカヤは、自分の心臓が氷水に付けられたような衝撃を受けた。
"呪いを解く事に失敗すれば、私も命を失う"
翠の言っていた事が頭を支配する。
まさか、そんな、失敗したのか。
「……ぐっ、」
タケルの腕の中の翠が、苦しそうに息を吐いた。
「翠様!」
慌ててカヤが呼びかけると、その瞼が僅かに開いた。
いつもより光の少ない瞳が、ハヤセミを向く。
「案、ずるなっ……契りは、無事解けた……」
それだけ言って、翠はまたその瞼を閉じた。
それ以上は言葉を発するのが難しそうな翠に代わり、タケルが口を開いた。
「翠様の仰る通り、魂の繋がりは解けております。翠様がこのようになっているのは、呪いを解くべく非常に難しい巫術をお使いになられたため、その影響でございましょう。お二人の命に別状はありませぬ」
そのきっぱりとした口調に救われたのは、カヤだった。
良かった。本当に良かった。
カヤの心に一気に安堵感が湧く。
未だ翠は苦しんでいて、それを見ているのは辛かった。
しかし翠が無事だと分かり、それが涙が出るほどに嬉しかった。
「お、いっ……ほん、とうに、解けたのかっ……!?」
そんな声が聞こえ、カヤも、そして恐らくタケルもハヤセミも、ようやく弥依彦の事を思い出した。
「全然……ぐっ、楽に、ならないぞ……!」
地面に倒れ込んだままの弥依彦は、未だ苦悶の表情で悶えている。
答を求めるように、ハヤセミがタケルに問いかけた。
「なぜですか!?繋がりは解けたはずでは!?」
「繋がりが解けたとは言え、背信から成る苦痛がすぐ去るわけではありませぬ。残念ながら自然に引くのを待つしか無いでしょうな」
命が助かったと言うのに、弥依彦は絶望的な表情をしていた。
ハヤセミはと言うと、なんとも言えぬ表情のまま主君を見下ろしている。
彼にしては奇跡的だが、もしかすると憐れんでいたのかもしれない。
「我らはすぐにでもこの国を出た方が良いでしょう。翠様の仰られたように、あまりお2人が近くに居るのは芳しくありません」
翠を軽々と持ち上げながら、タケルが立ちあがった。
普段ならばそんな事は絶対に拒否するだろうに、横抱きにされている翠は抵抗一つしない。
ただただ身体を弛緩させたまま、されるがままになっていた。
「しかし、そのご状態で国を出る事は出来ますか?しかも、まだ夜でございますよ」
ハヤセミが戸惑ったように言った。
確かに、今の翠が馬に乗れるとは到底思えなかった。
「私が翠様を支えながら馬に乗りますので、ご心配にあらず。それに……」
タケルが言葉を切り、窓の外を見やった。
「もう、夜明けでございますから」
その言葉に、カヤもタケルの視線の先を向いた。
美しさに息を呑む。
連なる山の向こう側から、放射状の光の線を纏った太陽が僅かに顔を覗かせていた。
どこまでも続いていた宵を切り裂くように、強く、真っすぐに。
その光は、カヤ達を優しく照らしていた。